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甲府地方裁判所 昭和31年(行)8号 判決

原告 久保寺昭二郎

被告 韮崎市長 外一名

主文

一、被告韮崎市長が別紙目録記載の土地につき昭和三十一年三月二十三日した公売処分はこれを取消す。

二、被告深沢武雄は原告に対し、右土地につき甲府地方法務局韮崎出張所昭和三十一年三月二十八日受附第四四六号をもつてなされた同年同月二十三日附市税滞納処分による売却決定を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として

(一)  原告は昭和三十一年一月十七日被告韮崎市長より市税、固定資産税等合計金十七万五千八百円の滞納に因り、原告所有の別紙目録記載の土地につき差押処分を受け、右土地は同年三月二十三日公売に付された。そこで原告は同年三月二十八日被告韮崎市長に対し異議の申立をしたが同年四月六日異議却下の決定があり同年同月十六日決定書の送達を受けた。しかしながら右公売処分は次の諸点において違法であるから取消を免れない。

(1)  滞納者の財産を公売するに当つては、国税徴収法施行細則第十八条により事前に公売期日を滞納者に通知することが要求されているに拘らず、本件公売はその期日を滞納者である原告に通知しなかつたから違法である。

(2)  又公売の執行は同法施行規則第二十二条により十日の公告期間をおいてこれが執行をなすべきであるに拘らず、本件において昭和三十一年三月十五日に公売公告をなし、同月二十三日右公売を執行したのは違法である。

(3)  更に右公売当時における本件土地の時価は金七十万円程度であるところ、公売価格は金十七万五千八百円であつて、不当に廉価であり、かかる価格による公売処分は滞納者の財産権を不法に侵害するものであるから違法である。

(二)  被告深沢武雄は、被告韮崎市長のした右公売処分により競落人として本件土地の所有権を取得し、昭和三十一年三月二十八日甲府地方法務局受附第四四六号をもつて所有権移転登記を了えたが右公売処分は前述の理由により違法であつて取消さるべきものであるから同被告も亦これが所有権を取得しなかつたものである。

よつて原告は被告韮崎市長に対して本件公売処分の取消を、被告深沢武雄に対しては前記所有権移転登記の抹消登記手続を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告韮崎市長の主張事実のうち、久保寺やすゑがその主張の日公売期日の通知書を受領したことはあるが、同人は原告の同居人でないから通知の効力はない。その余の事実は否認すると述べた。

被告韮崎市長訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張の日その主張のような理由に基き本件土地につき公売処分をしたこと及び被告市長が昭和三十一年三月二十八日附を以てなされた原告の異議申立を却下し同年四月十六日決定書を原告に送達したことは認めるが、その余の原告主張事実は否認する。被告市長は使丁貝瀬熊雄をして昭和三十一年三月十五日午後一時原告の同居人である久保寺やすゑに対し公売期日の通知書を交付した。従つて仮に原告がこれを受領してないとしても、右通知は訓示規定に基くものであるから公売処分自体が違法となるものではない。次に本件公売公告には国税徴収法施行規則第二十三条の規定による見積価格の公告をも併せ行つたものであるから、同規則第二十二条所定の期間をおいて公売を執行する必要はない。なお本件土地には甲州貨物株式会社の地上権が存するので、その時価は坪当り千二十円位であるから金十七万五千八百円の本件公売価格は相当である。従つて本件公売処分は適法であり原告主張のような違法は存在しないと述べた。

被告深沢武雄は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張の日その主張のような原因に基き本件土地につき所有権を取得し、これが移転登記をしたことは認めるが、その余の事実はすべて否認すると述べた。

(証拠省略)

理由

一、被告韮崎市長に対する請求について

原告が昭和三十一年一月十七日被告韮崎市長より市税、固定資産税等合計金十七万五千八百円の滞納によりその所有にかかる別紙目録記載の土地につき差押を受け、同市長が同年三月二十三日右土地に対する公売を実施しその結果金十七万五千八百円で売却処分されたこと及び原告が同年三月二十八日同市長に対し異議の申立をしたところ、同市長は四月六日右申立を却下し同月十六日決定書を原告に送達したことは右当事者間に争がない。

原告は右公売処分は期日を原告に通知しないで実施されたから違法である旨主張するが、国税徴収法による滞納処分として公売をなすに当つては、同法施行規則第十九条所定の公告をするをもつて足り、滞納者に対する期日の通知は公売の要件ではない。たゞ実際の取扱としては成可く公売期日を通知して公売施行前の納付を慫慂することが望ましいので好意的に通知をしているに過ぎない、従つて仮に滞納者に対し期日の通知を欠いたからとて公売処分を違法ならしめるものではないから、この点に関する原告の主張は理由がない。

次に原告は本件公売処分は公告期間を遵守しなかつた違法がある旨主張するので検討するに、被告韮崎市長が昭和三十一年三月十五日公売公告をなし、同月二十三日これが公売を執行したことは右当事者間に争がない。而して国税徴収法施行規則第二十二条によれば公売は同条但書の場合を除き公告の初日より十日の期間を過ぎた後これが執行をなすべき旨を定めておりしかも右期間中滞納者又は第三者は滞納処分費及び税金を完納し財産差押の解除を求め得る利益を有するのであるから同条所定の期間はこれを厳格に遵守しなければならないものと解すべきである本件において公売すべき物件が同条但書に該当しないことは明かであるから右法定の期間を経過せずこれより一日早く公売を執行したことは利害関係人に不利益を及ぼすものであつて違法といわねばならない。被告韮崎市長は本件公売公告には同規則第二十三条所定の見積価格をも併せ公告したから公売執行のために十日の期間をおくことは必要でない旨主張しているが、見積価格の公告は特定財産につき一般買受希望者に対して買受けの目安を与え、以て公正且つ合理的な公売処分の執行を保持するため民事訴訟法の例等にならい、規則第十九条に規定する公告必要事項と併せ適宜公告するものであつて、見積価格を公告したからとて、同規則第二十二条所定の公売時期の制限がなくなるものではない。従つて被告韮崎市長の右主張は採用することができない。結局本件公売処分は公告期間不遵守の瑕疵があり、この点において公売処分全体が違法となるから爾余の争点に対する判断を俟つまでもなく取消を免れない。

二、被告深沢武雄に対する請求について

次に被告深沢が右公売処分により競落人として本件土地の所有権を取得し、同年三月二十八日これが所有権移転登記をしたことは原告と被告深沢との間に争のない事実であつて、前段説示に基きその先決関係に在る公売処分の取消された以上被告深沢は本件土地の所有権を取得しなかつたものであるから、原告に対し、右所有権移転登記の抹消登記手続をなすべき義務があることは明らかである。

三、よつて原告の本訴請求は総てその理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝 野口仲治 土田勇)

(別紙省略)

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